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猫の心因性脱毛症という診断

に対する新たなチャレンジ

好酸球の増多(局所、血中)を伴わない、猫の自傷性脱毛症に対して心因性脱毛症と診断名がつけられがちですが, 海外では心因性脱毛症と安直に診断すべきではないとするエビデンスが報告され、精神性要因に委ねがちな風潮に警鐘が鳴らされています.

その根拠となった論文の概要を掲載します. この事実は、“ストレスによる心因性皮膚炎“と誤って診断された猫とその家族の心を癒すことになるかも知れません.

引用元:Waisglass SE, Landsberg GM, Yager JA, Hall JA. Underlying medical conditions in cats with presumptive psychogenic alopecia. J Am Vet Med Assoc. Jun 1;228(11):1705-1709, 2006.

 

概要

「心因性」という用語は身体的な要因ではなく心理的な要因に起因することを意味する。そして、「脱毛症」とは単に被毛の喪失を意味する。当然の事ながら、獣医師は猫を心因性脱毛症と診断する前に、彼らと家族の尊厳を守るためにも他の全ての要因をルールアウトする必要がある。ひとたび心因性と診断されると、家族は猫のストレスが自分自身にあるのではないか?と自責の念にかられることも少なくないからである。猫はさまざまな理由で自分自身を過剰にグルーミングすることで脱毛症を引き起こす。様々な理由として挙げられるものとしては、外部寄生虫疾患、感染症、アレルギー、食物有害反応、痛み、そしてホルモン障害などがある。具体的な例として、特発性膀胱炎(FIC:Feline Idiopathic Cystitis)と診断された猫の多くに腹部を舐める行動がみられることが、行動学の専門医によって観察報告されている。実際に原因が不明な段階では、多くの猫の家族は、私達獣医師が提案する様々な検査を許容してくれる。その答えが明確に得られない場合でも、猫が自らの力で、自らを傷つけていることに悩み、同情し、少しでも多くの情報を得るための原因追究の検査に協力的である。この研究はそのような猫の家族の献身的な協力の成果とも言える。

研究者らは心因性脱毛症と推定的に診断されていた21頭の猫を再評価した。猫の家族の代表が詳細な行動や皮膚科のアンケートに記入し、その後、獣医師が行動や皮膚科の系統的で完全な検査を実施してから、次のテストを実行した。

  • 皮膚スクレ―ピングによる細胞診

  • 真菌培養

  • 寄生虫に対する診断的治療への反応の評価

  • 除外診断食による食事トライアル試験

  • 食事に反応しない場合は、ステロイド注射の反応をみることで、過剰なグルーミングの原因が痒みによるものかどうかを判定

  • 環境抗原に対するアレルギーを除外するための主要試験

  • ホルモン障害の除外のための主要試験

  • 皮膚生検標本の組織学的検査

 

結果

研究の結果は以下のとおりである。16頭(76%)の猫で、医学上身体的な原因による痒みが同定された。

わずか2頭(10%)の猫だけが心因性脱毛症を有することが判明し、

さらに3頭(14%)の猫は心因性脱毛症と医学的に身体的な原因による痒みの組み合わせを有していた。

食物有害反応は、12頭(57%)のネコで診断され、さらに2頭で疑われた。皮膚生検標本において炎症の組織学的証拠を有するすべての猫は、医学上身体的な問題を有すると判定されたが 、組織学的異常のない6頭の猫のうち、4頭は食物有害反応、2頭はアトピー性皮膚炎(環境抗原に対するアレルギー)と食物有害反応との併発であり、心因性と診断できたものは2頭にすぎなかった。

 

まとめ

この研究成果は、被毛を引き抜く、被毛を舐め切る習慣を持っている猫を診断する際には、基本的な系統的除外診断のためのアプローチを怠ると、誤診を招くことを示唆するものです.

真の心因性脱毛症を呈する猫の割合は実際には少ないことを教示しています.

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