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​犬アトピー性皮膚炎:慢性期の治療 ①

​慢性のアレルゲン曝露の回避

慢性期の腹部病変:色素沈着と苔癬化

症状悪化因子の同定と回避

重度の色素沈着と苔癬化を伴う慢性病変に至るには、慢性的なアレルゲン曝露と掻破刺激が継続している背景が存在していることが想定されます. それらの徹底的な同定と回避を継続することが必要です.

特に以下の内容の見直しを行います.

  • 食物アレルゲンによる経皮曝露:特に口吻部,肛門周囲の病変において

  • ノミ管理:経口・内服剤によるコントロールと散歩ルートの見直し

  • 血清IgE検査による悪化因子・環境アレルゲンの絞り込み

  • ハウスダストマイトほか複数のアレルゲン対策

  • 細菌・酵母様真菌に抗菌剤療法

食物アレルギーの多くは食物アレルゲンの経皮曝露では?

 

食物単独でアレルギー症状を示す症例は 10%以下であることは国際的に広く認識されています. 食物有害反応を示す犬は,CADと同様の臨床症状を呈し,複数の環境抗原や食事抗原に対するアレルギーを併発していることが知られています. 食事中のタンパク質が消化管内で未消化のままアレルゲンとなった曝露された場合に,皮膚症状が発現するメカニズムに関しては、いまだ未解明の状況です.

犬でも,人同様,食物アレルギーは,CAD以外の症候群の臨床症状(例えば,蕁麻疹等)を発現することがあります. これは食事中のヒスタミンレベルが高くなっていることが背景にあることで説明できます.

 

CADと食物アレルギーを併発している犬の多くが口吻部~眼周囲に症状を示し, 2/3が肛門周囲の痒みを呈するとの報告に注目が置かれています. 口吻部の症状は, 採食時の食物アレルゲンの経皮曝露によって発症することが想定されます。肛門周囲の症状は, 未消化の食物残渣中のタンパク質が糞便中に含まれており,肛門周囲に付着した場合に, その部位への経皮曝露によって発症することが想定されます.

食物アレルギーの痒みや皮膚症状が, 採食、排便の際に曝露のリスクの少ない背側には発症しないという点も考察の根拠となります.

 

人では乳児期にピーナッツオイル配合のスキンケア製品使用するとピーナッツアレルギーの発症が約 8倍増加するという事実から, 食物アレルギーの多くは経皮曝露によって感作が成立するものと考えられています。乳児の皮膚構造が成人より薄くバリア機能が低下しているためですが, ヒトと比べて表皮角質層が 

1/5も薄い犬でも同様の現象がおこっていることが想定されます.

食物アレルギーの治療は,疑わしい食材を給与することなく,新奇タンパク質や加水分解タンパク質で構成される特別療法食を除外食として一定期間(6-8週間)給与します.その反応を評価する事が依然として国際的な診断基準となっています.除去食による臨床症状の軽減後に元の食事内容で誘発されることによって確定診断となります.

 

最近になって批判的に吟味されたトピックによっても,8週間の適切な除外食給与が皮膚の食物有害反応を示す犬の90%以上に対して症状を寛解に導くことが確証されています.

注目すべき事例として, 食器に満たしたドッグフードに口吻部を付けて食べさせる行動を是正し, 少量をハンドフィーディングによって給与したり, 食器を小さくして少量ずつ与えたり, 早食い防止用食器を用いて与えたりすることによって3週間ほどで口吻部の炎症と痒みが解消されたケースが多数経験されています.

その他に注意すべき事例として,ペットショップやその他の小売チャネルから得られた「非処方」ペットフード(限定された成分を含有と標榜した製品を含む)には,ラベルに記載されていない成分の痕跡が頻繁に含まれていることが3件の研究によって実証された事実が挙げられています. このような異物混入が,食物-誘発性ADの犬に悪化を誘導するかどうかについては不明ですが,臨床診断上の留意点としておきます.

特に下記に該当する最初の食事の変更への反応が疑わしい場合には,追加の食事試験が必要となります.

 

記:追加の食事試験が必要とされる場合

  1. 病歴から最初の食事試験に不適切な食事が選択されていたことが示唆される場合(例えば,新奇性に欠ける食事成分や獣医師の処方のために設計されたものとは対極的な一般食にありがちな組成の食事)

  2. 犬の現在の臨床症状が,肛門周囲の痒みであったり,胃腸に関連した症状であったりした場合

  3. 以前に十分にコントロールされたアトピー犬であるにも関わらずその時に役立った処方によってコントロールすることができないほど悪化が発症している場合

  4. 食事の与え方の工夫によって口吻部や肛門周囲に食物残渣が付着しないようにしているにも関わらず症状の悪化が進行している場合

食事試験における貯蔵ダニ(ストレージマイト)への配慮

ハウスダストマイトとストレージマイトやそれらの糞が,市販の乾燥ドッグフードでまれに検出されています.  保存されたドッグフードの袋に隣接した床の上のダニアレルゲンの濃度は,そのフード中の濃度よりもはるかに高いことが判明しています. 紙袋でのフードの保管,とりわけ適度な温度と高湿度の環境条件では,ケナガコナダニ(Tyrophagus storagemite)の数を増加させるという報告があります.

以上のエビデンスを根拠として下記のような配慮が必要です.

  1. ドライフード中のストレージマイトとハウスダストマイトとのアレルゲン交差反応性があるために,それらにしばしば過敏性反応を示すCADの犬にとっては再発の原因となる可能性を考慮します.(ただし,市販のドライフードを回避することがストレージマイトおよびハウスダストマイトに過敏である犬において有益であることを示唆するエビデンスは今のところ皆無であり,推測的です. )

  2. ドライフードを冷凍してみる. ストレージマイトによる汚染を減少させるかも知れません. ただし, ダニ過敏性の犬の臨床症状に対するフード凍結の影響は未知数です. 

  3. 過剰なストレージマイト汚染を減少させるために,ドライフードの保管場所は高温多湿を避け,清潔な密閉容器内での保存を家族に奨励します.

食事試験における貯蔵ダニへの配慮
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