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​犬アトピー性皮膚炎:慢性期の治療 ②

​慢性の痒み刺激のコントロール

カルシニューリン阻害剤

CAD の急性悪化を管理するためには,局所(タクロリムスなど)および経口(シクロスポリンなど)カルシニューリン阻害剤は不適とされています. それらの作用が遅効性で,作用発現までに時間がかかることがその理由です.

シクロスポリン(アトピカⓇ:エランコジャパン株式会社)

シクロスポリンAは動物用医薬品として承認され, エビデンスレベルの高い効果が評価されています。T細胞活性化のシグナル伝達において重要な役割を果たしているカルシニューリンに結合し,その活性化を阻害する免疫抑制剤です. サイトカイン産生を抑制し,T細胞の増殖を阻害します. 理論的には急性期から慢性期にわたる病変,双方に対して有効ですが,他の治療があまり有効でない慢性の苔癬化した皮膚病変の改善に役立っています.  5mg/kg 24時間毎3-4週間の連続投与で効果を判定し,2ヵ月以内に1日おきの投与に切り替えることが推奨されます. 一時的な食欲減退や嘔吐は治療開始時のごく数日に起こり得ますが,それ以外の副作用(例えば長期的な嘔吐,歯肉の過形成,多毛など)は殆ど現れず,発現した場合でも休薬をすることで対処可能です. 

長期投与による安全性の確認はなされていないので若齢犬・急性期のCADに対する第一選択薬には適していません.  因果関係は不明ですが,投与症例の中には毛包虫,疥癬など外部寄生虫症の増悪例,悪性リンパ腫発症の報告例があります.  加えて, 大型犬への費用負担は想像以上となります. 長期安全性が確認できていない点を配慮すると,以下の基準に適合した難治性CAD症例に限定した使用が推奨されます.

  1. 高齢症例

  2. 減感作療法がうまくいかなかった症例

  3. グルココルチコイドの要求量が増した症例

  4. 糖尿病やクッシングなどグルココルチコイド禁忌症例

  5. 家族が減感作療法の効果発現まで待てない症例

タクロリムス軟膏(0.1%プロトピックⓇ軟膏)

動物用の承認が得られていませんが,AD犬への効果を報告した論文もあり,臨床実績があがっています.糜爛潰瘍病変,或いは耳や眼周囲に発赤病変がある場合にはその部分への直接塗布を避け,周辺の皮膚に塗布することがポイントです. 1日1回薄く伸ばして塗布することで強い抗炎症効果と表皮再構築の効果が得られています.  効果発現まで2-3週間を要し,即効性はありませんが, 抗マラセチア作用も持っているので慢性の苔癬化した皮膚病変や肥厚した局所病変の改善に有効です. 多用を避け,改善が得られたら投与間隔を開けて漸減します. 

マラセチアのバイオフィルム対策

アトピー性皮膚炎の増悪因子としても知られるマラセチアですが,その二次感染によってもたらされるマラセチア皮膚炎が慢性期のCAD治療を阻害します.マラセチア皮膚炎の病態や症状は犬種によっても様々です.
例えばコッカー・スパニエル種では脂っぽくなり,コリー種では乾燥気味になることが知られています.
色素沈着も全ての犬種でおこるわけではありません.

さらに、最近になってマラセチアもバイオフィルムを形成することがわかってきました.
(Luciana A.et. al, ‘Biofilm formation of Malassezia pachydermatisfrom dogs’ “Veterinary Microbiology” Vol. 160 2012
マラセチアのバイオフィルムは強力な油性の膜で,シャンプーの薬効成分をはじいてしまいます.バイオフィルムは抗菌剤の浸透を阻むので,抗真菌剤を内服していても,それが無効となる可能性もあります.
このバイオフィルムに浸透して,それらを破壊するには,いくつかの方法があります. 

例えば,硫化セレン,過酸化ベンゾイル,サリチル酸,酢酸は,このバイオフィルムを破壊することができる優れた活性成分です.マラセチアが形成したバイオフィルムが疑われる,ネトネト,ベタベタした皮膚にはこれらの有効成分を適正レベルで含有した薬用シャンプーで下洗いすることが有効と考えられます.

 

また,“油は油で落とす”で知られるように,シャンプー前に予備的に精製された流動パラフィンが主原料のオイルを用いてクレンジング処理(乳化して流す)することが推奨されます.

人の新生児にも使われているベビーオイル(ジョンソン®ベビーの無香性ベビーオイル)が低刺激性で安心です.
 

毛包虫症への対処について

アトピー性皮膚炎の治療中に新しい脱毛部位が見られた場合には,毛包虫による症状増悪の可能性を考慮することは大切で,免疫抑制療法を実施中には頻回に抜毛検査を行うべきです.

 

治療の必要性の有無が常に論議の的となる若年性毛包虫症への対処について,国際的には見解の統一がみられています.すなわち,若年性の毛包虫症については,抗寄生虫薬の投与は必要ではありません.
その治療には,二次感染の治療や薬浴のような最低限の対処で十分とされています.シャンプー後はセラミド含有ローションで保湿することも忘れずに行います. その際のグルココルチコイドの使用は禁忌となります.
若年性の局所性毛包虫においては,薬浴以外の治療は無用で自然治癒の可能性が高く,むしろ若齢犬の栄養状態を確認することを重要視すべきとされています.

セラミド含有ローションの例

その他の治療オプション

エビデンスに値する評価はされていませんが,その他の治療オプションも症状に応じて応用可能です。症例によっては治療の根幹にも置くことができるほどです.

亜鉛の補給

コラーゲン合成促進サプリメント

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