犬アトピー性皮膚炎:慢性期の治療 ③
局所薬を用いたプロアクティブ療法
局所薬を用いたプロアクティブ療法
プロアクティブ療法は人のADにおいて提唱された治療法です. 人では,ADの悪化を防いだり,遅延させたりするために過去の皮膚病変発症部位に対する局所グルココルチコイドまたはタクロリムスの積極的で断続的な適用することには高い有益性と費用対効果および低リスクであるとのエビデンスがあります. CADの犬でも同様のアプローチが有益性,低リスク,低コストの点で検討する価値があることが以前から示されていました. その後, 小規模な検証試験の結果を根拠として,以前に皮膚病変があった部位への局所ヒドロコルチゾンアセポン酸スプレー(コルタバンスⓇ,株式会社ビルバックジャパン)2日連続で毎週の適用は,目に見える皮膚萎縮を引き起こすことなく,適用部位での病変の再発を遅らせることができ,その予防効果を評価されるようになりました. しかしながら,強力な局所グルココルチコイド製剤を使用する場合は,断続的な適用であってもグルココルチコイド誘発性皮膚萎縮を避けるように注意を払わなければなりません.
MMDパルス療法
マラセチアの増殖と色素沈着と苔癬化を伴う,慢性期アトピー性皮膚炎,脂漏性皮膚炎の短期改善に用いるレスキュー療法として日本国内でもプロアクティブ療法の応用が発表されています.
日本獣医生命科学大学 皮膚科担当(看護学科臨床部門)百田 豊 准教授によって発案されました.第157回日本獣医学会学術集会(2014,9/9-12 於 北海道大学)においても
『象皮様皮膚を呈する重度マラセチア皮膚炎に対する新規治療法"MMD療法"の検討』
として, その成果が報告されています.
苔癬化が重度の症例でマラセチアが消えないのは角化した上皮内にマラセチアが侵入した上に,苔癬化皮膚にはイトラコナゾールが届き難いためだと考えられます. その対処法としてMMDパルス療法を週に1 回通院で実施して効果を上げています.
処方例
慢性期CADにおける外用剤とシャンプーによる二次感染のコントロールと局所薬によるプロアクティブ療法を組み合わせた応用例としてのMMD療法
【材料および方法】
材料:
M:モメタオティックⓇ(モメタゾン/クロトリマゾール/ゲンタマイシン (株)インターベット)
M:マラセブシャンプーⓇ(ミコナゾール/グルコン酸クロルヘキシジン-キリカン洋行 )
D:ダームワンⓇ(セラミド/コレステロール/脂肪酸 複合体-株式会社ビルバックジャパン)
方法:
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ゴム手袋をはめて患部にモメタオティックを薄く薄く塗り広げる。10 ㎏で2-3ml 使用。
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エリザベス・カラーをつけて入院室で3-5 時間 ケージレスト。
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マラセブシャンプーを泡立てて,患部に塗り広げるようにすり込む。大きなスポンジを利用すると少量のシャンプーで十分な泡が得られる。
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そのまま10 分すり込みながら反応させ,すすぎ,タオルドライ。
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表面が十分に乾いてから患部にダームワンを擦り込む。
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これを週に1 回,半日入院で繰り返す。
このインターバルの1 週間は内服なしで痒みはコントロールレベルに達する。
経験的には2 週間でマラセチアは陰転し苔癬化した皮膚病変は3 週間目にはプルプルになります.発毛を促進したい場合は亜鉛の強化目的にポラプレジンクを用います.(5 kg以下1/4 錠/day ,10kg 以下1/2 錠/day)その後は,リアクティブ療法として必要に応じてコルタバンス(ビルバック)を用いて適宜痒みをコントロールし,家族の理解と協力が得られれば,減感作療法やその他の維持療法にてコントロールします.継続目安は2ヵ月(8クール)までにしています.
3ヵ月以上(耳介も含めて)継続した犬で,1例だけですが副腎抑制(血中コルチゾールの低下)が起こった症例が出ているので定期的なモニタリングによる注意が必要です.
※2013年12月に共立製薬から3種の有効成分,2%ミコナゾール硝酸塩,1%クロルキシレノール,サリチル酸を配合したセボゾール・シャンプーが発売されました. 角質溶解・止痒成分であるサリチル酸が配合されていることから苔癬化・鱗屑の改善により,効果的な適用が期待できます.