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​犬アトピー性皮膚炎:急性期の治療②

​二次感染のコントロール

CADの痒みの増悪因子として,マラセチアもしくはブドウ球菌の二次感染が関与しています.

その存在を確認するためには,診察のたびにテープストリップで皮疹部(マラセチアを疑う場合は発赤の辺縁部)を検査します. 特に,症状が悪化した時は, そのどちらかが増殖していることを想定してその都度の検査が重要です. 抗菌剤投与中の増殖であれば培養による感受性試験を実施し, 投与薬剤の有効性の再評価が必要となります.

テープストリップ法では,病変部皮膚に透明粘着テープ押し当てて体表物質を採取し,Diff-QuickTMで染色して顕微鏡下で観察します. スライドグラスにブルーの染色液を滴下し,その上から粘着採集面を下にしてテープを貼り付け,そのまま鏡検する簡便法が有用です.
 

体表に大量に皮脂がある場合,多くは油分しか採取されません. その場合,3回程度同じ場所で貼り剥がしを行い,最後の検体を採取します. 付着したマラセチア,角質細胞の核の有無とその割合,好中球に貧食された菌体やそのコロニー量を評価することができます. 経験的に二次感染がコントロールされていれば,痒みは現状の50%以下にコントロールできます.

染色されたマラセチアの顕微鏡像(×400)

①ブドウ球菌対策:

セフェム系の動物薬が第一選択薬となります. 表面あるいは表在性膿皮症であるならば,25-30mg/kgを12時間毎、2-3週間連日投与で改善を得た後,殺菌成分(2%クロルヘキシジンなど)を含むシャンプー療法による維持に切り替えることで再発予防が可能です.

深在性膿皮症を併発している場合は,甲状腺機能低下症やケラチンに対する自己免疫疾患などその背景にある基礎疾患を再考する必要があります.

その他の選択薬として,クラブラン酸-アモキシシリン製剤やニューキノロン系抗菌剤が挙げられますが,それらの効果が認められないケースでは,皮疹部から培養した細菌コロニーの感受性試験による適切な抗菌剤の選択が必要となります.

②マラセチア感染症対策:

皮膚や外耳道の痒みがある病変部から,テープストリップ標本の強拡大鏡検で1視野に1個でもマラセチアが検出されればその対策として抗真菌薬の内服が推奨されます.

イトラコナゾール5mg/kgSIDのパルス療法(2日連投,5日休薬を1クールとして3クールごとに判定)が一定の評価を得ています. 肢端を頻繁に舐めているケースでは,被毛が赤褐色に変色していたり,指間に炎症がみられたりすることがあります(舐性肢端皮膚炎). その場合,爪元をよく観察する必要があります. 爪表面が根元から赤褐色にコーティングされた状態にあれば,爪表面をスクラッチして得られた検体をスライドグラスに塗布し,ブルーの染色液を滴下して鏡検します. マラセチアが検出されればその感染による爪床炎の検証となります. 病巣は爪の包皮内にあるため抗真菌シャンプーや抗真菌クリームの塗布は、残念ながら無効となります.イトラコナゾールのパルス療法を適用することが推奨されます.

苔癬化および肥厚した局所病変があれば,その周辺へのタクロリムス(抗マラセチア真菌作用も併せ持つ:0.1%プロトピックⓇ軟膏)1日1回・夜,塗布による外用治療が有効です.

IgE検査でブドウ球菌,マラセチアが陰性であっても,存在が確認されればその結果を優先し,年齢と病歴および臨床症状を配慮して感染の除去治療を行います. 慢性感作に関連してそれら抗原に特異的IgEが陰転する替わりに特異的IgGが増加している状況や, 遅延型過敏性反応の病態に変化していることも想定できるからです.

​セラミド含有低刺激性シャンプーの例

​低刺激性シャンプー剤を用いての薬浴

軽度ADの犬に対するセラミド含有の低刺激シャンプーによる入浴の頻度と強度は痒みを軽減する最も重要な因子となりえます.家族が自宅で薬浴シャンプーをする際には別記の内容をアドバイスが役立ちます. AD犬の管理のためのシャンプー製品は,表皮バリアの障害を最小限にしながら皮膚表面の抗原を除去し,細菌とマラセチアの過剰増殖を予防できるものが理想です.

​皮膚バリアの改善:表皮角質層の補強

ADの犬では,人と同様に,表皮の脂質バリアに欠損があることが報告されています.
表皮のセラミドを回復させる試みは有用である可能性があります.
複合脂質のローション(ダームワンⓇ:(株)ビルバックジャパン)の塗布により,
セラミド,コレステロール,脂肪酸エステルで構成される表皮間脂質を補うことが可能となっています.この製品の使用によりCADにおける表皮細胞間脂質の改善が電子顕微鏡によって確認されています.

​セラミド含有複合脂質ローションの例

自宅でシャンプーを上手に実施するコツ-​

  • シャンプーはスポンジでよく泡立ててから全身に擦り込むように塗布する。身体に直接シャンプー剤をつけない。

  • 泡を塗布した後に,濡れたタオルでくるみ,最低でも5分間,理想的には10分間そのまま薬液がしみこむまで保持する。

  • 人肌以下のぬるま湯(32℃-34℃)で良くすすぐ。指の間などに薬液が残らないように1本1本丁寧に。

  • 吸水性の高いスポンジタオルで水分を吸うように身体を拭く。コットンタオルもコットンにIgE陽性でなければ使用できる。

ドライヤーで乾かすときは温風を使用せず,冷風で風乾するだけにします. 温水や温風などを使って体表面の温度をあげてしまうと血行が良くなり,シャンプー後の痒みが増すことがあるので注意してください. 

自宅でシャンプーを上手に実施するコツ
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